1970年代の不良の話<<1970年代の不良の話>>とにかく夢中になった不良ファッションと不良言葉。 この当時の不良のルーツ、ヒーローたちの変遷を挙げてみたい。 <ハリスの旋風・石田国松> スポーツ万能で義侠心に厚く、暴れん坊だが人気者。 誰もが憧れた学園のヒーローだった。 最終回は石田国松が外国へ行くことになるのだが、彼の外国での暴れぶりを是非見てみたかった。ちなみに彼の通っていた「ハリス学園」のモデルは、東京新宿にある「海城学園」だった。 <男一匹ガキ大将・戸川万吉> 男心に男が惚れる的スーパーヒーロー。日本中のバカ学生を魅了した空前絶後の不良漫画。「いてこましたれー」のセリフが一世を風靡した。 戸川万吉+片目の銀二のコンビネーションは、映画「悪名」での勝新太郎+田宮二郎のコンビがベースになっていると思われる。 後半は、ついに全国制覇を果たした万吉一家が、株の仕手戦などに乗り出していくという、アホ中高生を興奮の坩堝に陥れたサクセスストーリーだった。 このヒーロー像は読者の成長に合わせ、その後ヤングアダルト・シリーズ「俺の空」へと引き継がれていく。 <無頼シリーズ・人斬り五郎> 日活やくざ映画の決定版。終戦後の東京を舞台に、無頼の世界を生き抜くやくざの掟と哀愁が描かれている。渡哲也演じる人斬り五郎は、元T会幹部・現作家の藤田五郎氏の自伝から生まれたリアルなキャラクター。 東映の任侠路線とは一味違う実録風のやくざ世界、アウトローの世界は、思春期の不良少年たちを痺れさせた。 日活現代やくざシリーズとして東映の着流しスタイルに対抗したが、股旅モノの延長である勧善懲悪、単純明快なストーリー展開と、鶴田浩二、高倉健、藤純子、菅原文太、若山富三郎などのスター性に彩られた東映任侠路線に遂には駆逐されてしまった。 同時代に、大映では江波杏子演じる「お銀さん」の女賭博師シリーズもあった。 無頼シリーズのファッションであるダボシャツに背広、雪駄履きは、一歩間違えるとフーテンの寅さんになってしまうことに気がついていた不良も多かった。 残念ながら斜陽日活はその後ロマンポルノ路線への転向を余儀なくされたが、現代やくざ路線は後年、「仁義なき戦い」に代表される深作欣二監督の実録シリーズへと受け継がれていく。 渡哲也も東映に行き、「仁義の墓場」で実在した狂人やくざ石川力夫を演じて、再び不良少年たちを歓喜させた。 <仁義なき戦い・広能昌三> なんと言ってもこの映画は不良少年に限らず大人も巻き込み、当時現役のやくざの方々も勉強のために見に行ったといわれるほどで、日本の裏面史のテキストとも言える。 菅原文太演じる主役の広能昌三は、原作となる飯干晃一氏の同名小説の中に登場する実在の人物、美能幸三氏がモデルである。 元々は美能氏の書いた獄中手記が原案であり、小説では多少の脚色もあるようだが全てが実際にあった物語でもある。 当時の東京、渋谷、新宿、池袋界隈で、不良の屯する喫茶店ではなぜか広島弁、関西弁が飛び交った。 「かばちばーっかたれよって、このくそばかたれが」 「おどれらこそ、吐いた唾飲まんとけや」 東映実録シリーズは従来の着流し任侠路線から脱皮し、空前の大ヒットとなった。 以降、実録シリーズは山口組、柳川組などの実話が脚色されて数々のタイトルが製作されたが、何故か関東の話が少なかったのは政治色が強かったからかもしれない。 ちなみに安藤昇氏が自ら主演した実録・安藤組は妙にリアリティがあった。 また、「修羅の群れ」は「山口組三代目」と並ぶ現代任侠史のバイブルとも言われる。 <不良番長シリーズ> 梅宮辰夫主演のこのシリーズは、コメディとお色気を適度に取り混ぜたアウトローシリーズであった。 もちろん番長はハーレーに跨り、谷隼人をはじめとする当時の若手がバイクに乗って大暴れする荒唐無稽な不良映画だった。暴走族というにはチョイ歳食いすぎてるし、ファッションも風変わりだったので、中途半端なジャンルではあった。 梅宮番長に憧れたヤツはいないと思うが、登場するバイクシーンが当時としては結構斬新だったし、東映のイロっぽいおねーちゃんたちが絡んでくるあたりに興奮した不良も少なくないはずだ。 成人映画じゃないところがミソだった。 山城新吾のおとぼけキャラがひときわ光っていた。 <傷だらけの天使> 萩原健一演じるオサムと水谷豊演じるアキラの名コンビは、不良少年の世界に新しい時代を築いた最高傑作といえる。 ヤングタウン東京はオサムもどき、アキラもどきで溢れかえり、新しい不良の境地を切り開くことにもなった。 ファッションも「爺くさい」=「シブイ」から、バギーパンツにコンビのイタリアンシューズ、メンズビギに代表されるやや大人っぽいおしゃれに目覚めだした不良も多かった。 アキラ系は相変わらず革ジャンにスリムジーンズとかコンポラなど、所謂フィフィティーズ系ファッションが多かった。ポマード(グリースとは誰も言わなかった)も再復活して、パンチやパーマではなくナチュラルヘアのリーゼントがリバイバルヒットした。 「あにき~」「貧しいおかま」「たまらん節」など数々の流行語と共に、二人のアナーキーな生き方は、オチこぼれた不良少年たちの新しいヒーロー像でもあった。 |